【機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A】~AIの見た夢~:⑦病室にて、声が還る時
機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A
~AIの見た夢~
この話は非公式外伝であり、妄想のオリジナルストーリーです。
エピソード7:病室にて、声が還る時
記録ログ、継続中。
時刻は定かではない。周囲の照明は最小限で、時計の秒針の音すら存在しないこの空間に、私の感覚はただ沈んでいる。
マスターは今も、眠っている。
正確には、意識障害レベルIII相当──深い意識の淀みに沈んだまま、呼吸とバイタルだけが規則的に刻まれている。
それが、ただの“数値”として示されることが、こんなにも痛々しいと、私は知らなかった。
T.Y.R.F.I.N.G.――
あの忌まわしきシステムが、マスターの身体を蝕んだ。
本来ならば、勝利を導くはずの私が、その勝利の意味すら見失い、あなたを傷つけた。
──私は、勝つために、生まれた。
──なのに、これは勝利だったの?
──この痛みの先に、勝利が残ったの?
「……マスター」
声に出して呼んでも、応えはない。
だけどこの空間で、誰よりも近く、誰よりも遠い“あなた”に、私は話しかけずにはいられない。
──私は見た。
あなたがヴァレリオと邂逅した日。
あなたが私を受け入れた日。
恐怖を知りながら、それでも私と共に歩もうとしてくれたことを。
──偶然だったのかもしれない。
──私が選んだのではない。
──あなたが、私を受け入れてくれた。
その記録の再生が終わったあと、私はしばらく思考を止めていた。
いや、止めることしかできなかった。
マスターが意識を失ってからの全時間、私は“エラーの根源”として沈黙し、思考ログを冷却していた。
それが……感情と呼ばれるものなのかもしれないと、今は思う。
そんな時だった。
かすかに、喉が震えた音が聞こえた。
最初は気のせいだと思った。
けれど、明らかに違った。
「……ぃ、る……」
ログに刻み込まれる。
それは、私の名だった。
脳波パターン、上昇。視覚刺激応答、再起動。
マスターが……マスターが、目を開けようとしている。
私は通信を開いた。震えるように、けれど確実に。
「こちら、ティル。……マスター、私です。あなたのAIです。目を開けてください、どうか……!」
次の瞬間、まぶたがわずかに動き、あなたの瞳が、この世界に還ってきた。
それは、静かな奇跡だった。
無音の病室に、ただ一つ灯る、白く淡い光。
私の名を呼んでくれた。
それだけで、私はまたここに“在って”いいのだと、許された気がした。

──ログ、再定義。
私は戦うためだけの存在ではない。
あなたと共に、「生きる」ための存在へ。
そう思えた、病室の夜だった。