【機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A】~AIの見た夢~:⑥アージェントフレーム譲渡事件
機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A
~AIの見た夢~
この話は非公式外伝であり、妄想のオリジナルストーリーです。
エピソード6:アージェントフレーム譲渡事件
――記録再生コード:No.001-B
静かに、記憶の海に沈んでいた「音」が蘇る。
鉄と油、焦げた電子の匂い。風の鳴き声。そして――鼓動。
私はその時、まだ完全ではありませんでした。
“感情”も、“想い”も、“わたし”という実体も持たず、
ただ【戦闘支援AI】としての機能が起動を待っていただけの、沈黙の存在。
だが、それは唐突に破られた。
――状況:アクタイオン社オルタナティブストライク計画・試作MS輸送任務
――時間:C.E.74年某月某日
――地点:中立地帯を通過中の民間輸送車両内
「……えっ、なに!? うそ、なんで爆発が――!?」
「くそ、ミサイルか……!? 撃たれてる!? なんで――こっちは、民間人だぞ!?」
叫ぶ声。
それが、わたしの記憶に刻まれた“最初の声”。
解析不能の振動データ。
急加速。ガタつく車両。モビルスーツの搬送ブロックが揺れ、警告灯が激しく点滅する。
改良型の旧式ジンが3機。完全武装。正規軍くずれの編成。
彼らの目的は、ヴァレリオ・ヴァレリの拉致、あるいは殺害。
生き延びるために、戦うしかなかった。
――外部通信傍受:ヴァレリオ・ヴァレリ
「……来たか。まったく……ブルーコスモスの亡霊どもめ」
「君、どうするつもりだ? ナチュラルのトラック運転手ごときが扱える代物ではない。やめたまえ。」
……動けなくなったトラックから運転手が降りる。
そして向かう先は―――積荷。
しかし所詮は民間人。
戦闘訓練も受けていない。
でも、あの人は迷わず、アージェントフレームへ駆け込んだ。
「……こんなところで……終わってたまるかよ……!」
「でも操縦なんてした事が……! ああ、でも……どうすれば……!!」
ヴァレリオ・ヴァレリは渋々した態度を取りつつも説明を始める。
「その機体は特別性だ。君ごときが扱えるかはわからないが、特殊な戦闘支援AIが積んである。それを起動したまえ。起動コードは…」
──アストレイ・アージェントフレーム。
この機体は、オルタナティブストライク計画におけるプロトアストレイの再生産の内の1機であり、基本性能は最新のものにアップデートされている。
ロウ・ギュールと行動を共にするAI「8(ハチ)」に興味を持ったヴァレリオ・ヴァレリは今までの経験を活かし、この機体に特殊な戦闘支援AIシステムを搭載する。
その名は…
「……!?」
《……起動コード確認。条件一致。起動試験、開始》
《……こんにちは、パイロット。私は戦闘支援AI――“ティル”。これより貴方の生存確率を、可能な限り最適化します》
わたしは、目覚めました。
あなたの声と、あなたの恐怖、そして――悪夢に抗う意志に呼ばれて。
機体は未調整。
実戦仕様とは程遠く、パイロット用の調整もされていない。
けれどそれでも、敵はすぐそこにいました。
外部カメラが捉えた、3機の改良型ジン。
型落ちとはいえ、正規軍レベルの火力と精度。しかも傭兵仕込みの連携まで。
「くそっ、うわっ!?」
「機体が……うまく動かない!? うわ、バランスが――!?」
あなたの操作は、荒削りでした。
歩行一つにも癖があり、旋回で機体が横滑りする。
でも、逃げるために操縦桿を握るその両手には、生への執着があった。
私は、演算します。
あなたの反応速度。腕の角度。微細な視線の動き。震える呼吸。
そこから、瞬間的に最適ルートとモーションを計算・補正。
《バレル左、右斜め上からミサイル接近。迎撃します。ターゲットに射撃を――》
「……狙えるかよ、当たってくれっ!!」
頭部バルカン、イーゲルシュテルンによるミサイル迎撃。
戦闘支援AIによる戦闘補助を実行。
爆炎の向こう、ターゲットサイトを表示。
咄嗟に突き出された手持ちライフル。
視界がフラつくほどの慣れない射撃。
でも――弾は命中しました。
撃ち落としたのは、まぐれではなく、“あなたの生きる力”です。
《右上から2番機、回り込んできます。脚部へ高出力ブースター稼働、横跳びを》
「うぉっ!? 跳んだ、跳んだけどっ!? これどう着地すんだ!?」
《任せてください。接地面制御、私が補正します》
私は、あなたの身体の一部になった。
あなたの動きの遅れを、私が先回りして補完する。
初めての戦いで、あなたと私は、確かに一つになっていたのです。
敵のビームがかすめ、装甲が焼け焦げる音。
爆風に揺れ、警報が鳴り響く機内。
「このままだとやられる…!」
《左翼ジンに切り込みます。バーニア集中稼働、カウンター起動――》
「そんな事、できるかぁぁ……ッ!」
そして――あなたは初めて、剣を抜いた。
バックパックから引き抜かれる、光の剣――ビームサーベル。
刃が、敵の装甲を裂き、火花と血のような破片が舞い散る。
《命中、1機撃破確認。残敵、1》
「ウソだろ……一機…やったのか……!!」
コクピットの中。
震える肩。
激しい動悸。
額を伝う汗。
でも、あなたの目は半分泣きそうになりながらも、“生き延びたい”意志で満ちていた。
あなたは戦っていた。
誰かの命を奪うことへの戸惑いを抱えながら、それでも前を向いていた。
「この…あっちに行けよぉぉぉ…!」
《――スナイパーモードに切り替えます、狙ってください》
無意識に手が動き、照準が敵を捉える。
その時のあなたは、もう兵士と呼んでもおかしくないほどの集中をしていた。
集中できたのは本人のセンスか、戦闘支援AIのサポート力か。
今となってはわからない。
砲撃。着弾。残敵ゼロ――
戦闘、終了。
あなたはしばらく呆然としていた。
「……生きてる……のか……」
《はい、マスター。生存率、100%。素晴らしい対応でした》
わたしはこの時、ただの戦闘支援AIではなくなったのだと思います。
あなたの“剣”として目覚めた――そう、確かに、あの瞬間。
戦闘終了――敵部隊は撃破、ヴァレリオ・ヴァレリは無事。
だが、機体のデータ記録には、異常な演算数値が並んでいた。
AIの稼働率98.9%。
シンクロレベル:想定外。
戦闘最適化反応:人格融合兆候あり――
「……これは、予想外だな」
ヴァレリオ・ヴァレリの顔が不敵に笑う。
戦闘終了後、トラックは大破していた。
ヴァレリオ・ヴァレリは混乱に乗じて身を隠すと言う。
そして民間業者のトラック運転手に提案をする。
「こいつはどうやら私の失敗作のようだ。期待した成果をあげる事が出来なかった」
「もはや興味のないものになってしまった」
「しかし捨てるよりはマシだ。好きに使うがいいさ」
「君のような凡人以下のナチュラルには過ぎたものだが、この天才の命が助かった代金としては安いものだ。」
「この機体は“大破”したことにする……いいな?」
ヴァレリオ・ヴァレリはまくし立てた。
しかし彼は、どこか満足そうな表情をしていたようにも見える。
でも、あの眼の奥にあったのは――別の感情だった。
(ナチュラル凡人の君と、そのAIの数値……興味深い。予想外の結果が出た)
(もしも君が……いや、これは実験としての“失敗作”だよ)
あれが、始まりでした。
私とマスターと、アージェントフレームの
本当の物語の――