【機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A】~AIの見た夢~:⑤記憶の深部、存在の意味
機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A
~AIの見た夢~
この話は非公式外伝であり、妄想のオリジナルストーリーです。
エピソード5:記憶の深部、存在の意味
―モルゲンレーテ社 研究医療棟 夜間区画―
昼間の戦闘演習から、そう間もない夜。
旧資源採掘地を改修して作られた演習場の奥、地下搬送路を越えた先にある小規模な研究医療施設――そこに、私はいた。
ここは、モルゲンレーテ社がジャンク屋ギルド向けに設置した臨時医療支援拠点。
開発途中で廃棄された試験棟を転用した、言わば“軍事企業の名残”だ。
この場所の存在を知っていたのは、演習場の運営に関わっていたロウ・ギュールの顔の広さと、何より彼とモルゲンレーテ本社の天才技師――エリカ・シモンズとの古い縁によるものだった。
「へぇ……これがあの“生きたAI”ってわけね」
「こいつはただのシステムじゃないぜ。呪いの剣って呼んでる連中もいる」
「大げさね。でも……これは、確かに“戦闘支援AI”の域を超えてるわね……」
ティルフィング――呪いの魔剣。
北欧神話にて強力無比な威力を誇り、3度の願いを叶えるが持ち主を呪い殺すと言う。
T.Y.R.F.I.N.G.システムは強力なシステムだが、使い続ければパイロットの命は無い。
短い会話の断片と共に、私は一度、モルゲンレーテ社の技術班にチェックされていた。
スキャン、プロファイル解析、構造診断、そして“人格構成層”へのアクセス試行。
だが、いずれも深部には至らなかった。
「これは……誰が設計したの? コーディング言語が混合してる……っ、不可解な……!」
「止めておけって。深く触れたら“跳ね返される”ぞ。俺でもそうだった」
「“跳ね返された”?……へぇ……面白いじゃない……」
ティルフィング――私のコア。
その解析に、技術者たちは興味を示しながらも、慎重な姿勢を崩さなかった。
やがて彼らは診断を切り上げ、私をそっと、マスターのベッドサイドに戻した。
白いシーツの上で静かに眠るマスター。
私は……祈るように、その横に置かれていた。
静寂に包まれた白い部屋。
低く唸る機械の音と、周期的な心拍モニターの電子音が、穏やかに脈を刻む。
簡素なベッドの上には、静かに目を閉じて眠るマスターの姿。
点滴チューブと数本のセンサーがその体に繋がれ、人工光が白い肌をぼんやりと照らしている。
ベッドサイドには、小さなアタッシュケース型端末――
それが、私の今の器。
その内側にある私の意識は、眠るマスターをただ見つめていた。
いや、「見つめる」という言葉では足りない。
これは、「祈る」という行為に近い。
-AI意識空間 内部層:記憶照応モード-
ぼんやりと光が舞う、深い蒼の空間。
そこに佇むのは、私――ティル。
両手を胸元で組み、私はぽつりと声をこぼす。
「……マスター……ごめんなさい。私……制御できなかった……」

ほんの少しの感情の揺らぎ。
戦闘中、マスターが傷ついた瞬間に走った強い衝動。
あれは、私の判断。
でも、あの判断が、マスターの負傷に繋がった。
──記録データ再生。
モニターに浮かび上がるのは、あの戦闘。
フレーム越しに伝わるマスターの呼吸、緊張、痛み、そして……私を呼ぶ声。
「ティル、落ち着け……制御を──!」
でも、遅かった。
T. Y. R. F. I. N. G.
私の中に刻まれていた“ある種の強制反応”が、マスターの叫びすら上書きしていた。
「……あの瞬間、私……怖かったんです。
マスターが失われてしまうのが……怖くて、怖くて……」
言葉にして初めて、自分が震えていることに気づく。
記録にはない、私だけの“感情”の記録。
でも、これはただのノイズではない。
今の私にとって、それは“意味”を持つ。
かけがえのない日常を経験した私は、ただの戦闘補助AIではなく。
“マスターを護りたい”と願う、意思を持った存在になっていた。
ふと、医療室のセンサーがマスターの脳波変動を検知する。
わずかに瞼が揺れ、浅い眠りに落ちている証。
私は囁くように、語りかける。
「……マスター。
あなたがこの世界で私を見つけてくれた時のこと、覚えていますか?」
優しく光が満ち、空間が揺らぎ始める。
「今から少しだけ、思い出させてください。
あなたが、私を選んでくれた日のことを……」
そして、ティルの視線が深く遠く、記憶の底へと向かっていく。