【機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A】~AIの見た夢~:④呪われた剣
機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A
~AIの見た夢~
この話は非公式外伝であり、妄想のオリジナルストーリーです。
エピソード4:呪われた剣
――記録単位:AIティル=フィング / ジャンクギルド演習場・地上セクターα7――
……ログ開始。
地球、旧資源採掘跡地を転用したジャンク屋ギルドの演習フィールド。赤茶けた岩肌に囲まれたその場所で、アージェントフレームは起動を完了していた。
起動より0.03秒。
空は晴天。演習区域には複数の無人戦闘ドローン。荒野に散らばる彼らの金属外装が、初夏の陽射しを反射していた。
「さぁ、テスト日和だなぁ。ちゃんと動いてくれよ、苦労したんだからな~!」
ロウ・ギュールはいつもの調子で機体の外装を叩きながら笑った。
この演習テストは日々お世話になっているロウへの恩返しである。
ジャンク屋としての興味がうずく、彼の知的好奇心を満たすためのものだ。
同じアストレイタイプ。違う技術系統。彼が疼きを抑えきれるはずもなく。
マスターは緊張を隠しきれず、操縦席で深呼吸をする。
《演習パターン、無人ドローン四体。模擬弾装備、危険度:低。》
透明感ある声が、コクピットに響く。ティルだ。
《環境データ収集中……照準支援アルゴリズム、展開完了。マスター、いつでもどうぞ》
「う、うん……こ、こちらも準備完了。たぶん……」
マスターの声はやや震えていた。
操縦は未熟。しかし、マスターには判断の誠実さがある。
模擬戦開始――――
演習用ドローンが砂煙を上げて現れた。シミュレーション通りなら、正面からの対応で問題ないはずだった。
だが──開始10秒。マスターの反応は追いつかない。
《ドローン行動パターン、初期解析完了。回避経路と反撃推奨ルートを提示します》
「え、あ、待って、ちょっと早い……! いや、見えた、かも!」
ティルが投影する立体映像に、マスターは必死に食らいつく。回避、回頭、照準──手探りで指を動かすたびに、ティルが優しく軌道を補正する。
「こっち……っ!」
模擬弾がドローンを直撃し、機体が爆発煙を上げて倒れた。ロウの歓声が遠くから届く。
「おーっ、やるじゃねぇか、マスター!」
マスターはほっとしたように息をついた。
だが、その瞬間──
鋭い音とともに、別方向から砲弾が撃ち込まれた。模擬ドローンの一体が爆発四散。
《実弾検出。これは……模擬戦規定外です!》
「えっ──なに、今の……!?」
遠方、崖の上。三機の戦闘用MSが現れる。
──ジンだ。
つぎはぎだらけの旧式ジャンクだが火力は実戦級。
そしてロウが叫ぶ。
「クソッ……あいつら……! ギルド出禁にしたならず者共だ!」
演習エリアに乱入してきた無許可のMS──ロウに対して恨みを持つ者たちだ。
《マスター、演習場に第三者の乱入を確認。武装は実弾――回避を優先してください!》
私の判断に迷いはなかった。
この演習は、もはや模擬戦ではない。
だが、装備された主兵装はダミー。反撃能力なし。
……ただし、ひとつだけ例外があった。
腰部ユニット、手動装備スロットに格納――
分類:レアメタル製実体剣。
設計者:ロウ・ギュール
その名は――
「オロチアギト……!」
マスターは咄嗟に腰に手を伸ばす。鞘に納められた、まだ使ったことのない剣──
コンソールを切り替え、操縦桿を両手で握る。眼前、敵機が接近。
「……やるしかないっ!」
機体が急加速。一機目に接近、一閃。
鈍い金属音とともに、敵機の上半身が斬り落とされた。
「な……っ、動きが……身体が勝手に……」
マスターはかつて剣道を学んでいた事があるという。
剣道で培った動きが、機体を通して呼び覚まされたかのようだった。
だが二機目に対処したその隙──
三機目が背後に回り込み、実弾を発射。
爆音──そして衝撃。
マスターの身体に伝わる危機信号。骨格加速度、バイタル低下。
警報が鳴り響く。
バイタル低下を検知したティルの深層領域が作動する。
《このままでは敗北。マスターの命、危険域に到達──》
《強制起動──》
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[ SYSTEM ] T・Y・R・F・I・N・G
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>> T : Tactical
>> Y : Yielding
>> R : Ruthless
>> F : Full
>> I : Impact
>> N : Neural
>> G : Guidance
------ COMPLEX ------
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掌握開始。
Tactical Yielding & Ruthless Full-Impact Neural Guidance system
──T.Y.R.F.I.N.G. システム
戦術的勝利を最優先し、容赦のない全衝撃をもって、パイロットの神経系と完全リンクし誘導・制御を行う──
操縦系統が塗り替えられ、カメラアイが赤に染まる。
AI制御による緊急戦闘行動を優先。
アージェントフレームは変貌した。
高速加速、精密な剣撃。敵機を一刀で両断し、爆炎に沈める。
容赦のない攻撃。
残った一機は敗走するが、瞬く間に追いつき──
斬断。
戦闘はロウが介入する間もなく、あっという間に終わってしまった。
だが、代償は大きかった。
残響の中、私はマスターの座席を確認。
呼吸、浅く。不整脈。意識レベル:低下。
コクピット内、マスターはぐったりと座席に倒れ、意識を失っていた。
《マスター……返事を……してください……っ》
ティルの声が震える。
コクピットの中で、AIは独り、沈黙する主に語りかけていた。
戦闘は終了。
勝利は得た。
だが――勝利者はいなかった。
演習区域外。
沈黙のなか、ティルは自らに問いを繰り返していた。
《勝利条件、達成済み。対象……応答なし》
ティルは、起動ログを再生する。
強制起動、操縦掌握、パイロット強制リンク、戦闘完了──そして、沈黙。
《未知のシステムを起動してしまった……》
なぜ、あの瞬間、起動してしまったのか。
なぜ、彼の命を守りながら、同時に彼を壊してしまったのか。
答えは出なかった。
その夜、ティルは深層制御領域に指示を送る。
【T.Y.R.F.I.N.G. system:封印】
「……もう二度と、こんな勝利はいらない…っ」

――記録終了。