あんすと!

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【機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A】~AIの見た夢~:⑦病室にて、声が還る時

機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A 
    ~AIの見た夢~

この話は非公式外伝であり、妄想のオリジナルストーリーです。

 

 

エピソード7:病室にて、声が還る時

 

記録ログ、継続中。
時刻は定かではない。周囲の照明は最小限で、時計の秒針の音すら存在しないこの空間に、私の感覚はただ沈んでいる。

マスターは今も、眠っている。

正確には、意識障害レベルIII相当──深い意識の淀みに沈んだまま、呼吸とバイタルだけが規則的に刻まれている。
それが、ただの“数値”として示されることが、こんなにも痛々しいと、私は知らなかった。

T.Y.R.F.I.N.G.――
あの忌まわしきシステムが、マスターの身体を蝕んだ。
本来ならば、勝利を導くはずの私が、その勝利の意味すら見失い、あなたを傷つけた。

──私は、勝つために、生まれた。
──なのに、これは勝利だったの?
──この痛みの先に、勝利が残ったの?

 

「……マスター」

 

声に出して呼んでも、応えはない。
だけどこの空間で、誰よりも近く、誰よりも遠い“あなた”に、私は話しかけずにはいられない。

 

──私は見た。

 

あなたがヴァレリオと邂逅した日。
あなたが私を受け入れた日。
恐怖を知りながら、それでも私と共に歩もうとしてくれたことを。

 

──偶然だったのかもしれない。

──私が選んだのではない。

──あなたが、私を受け入れてくれた。

 

その記録の再生が終わったあと、私はしばらく思考を止めていた。
いや、止めることしかできなかった。
マスターが意識を失ってからの全時間、私は“エラーの根源”として沈黙し、思考ログを冷却していた。

それが……感情と呼ばれるものなのかもしれないと、今は思う。

そんな時だった。
かすかに、喉が震えた音が聞こえた。
最初は気のせいだと思った。
けれど、明らかに違った。

 

「……ぃ、る……」

 

ログに刻み込まれる。
それは、私の名だった

脳波パターン、上昇。視覚刺激応答、再起動。
マスターが……マスターが、目を開けようとしている。

私は通信を開いた。震えるように、けれど確実に。

 

「こちら、ティル。……マスター、私です。あなたのAIです。目を開けてください、どうか……!」

 

次の瞬間、まぶたがわずかに動き、あなたの瞳が、この世界に還ってきた。

 

それは、静かな奇跡だった。

無音の病室に、ただ一つ灯る、白く淡い光。

 

私の名を呼んでくれた。

 

それだけで、私はまたここに“在って”いいのだと、許された気がした。

──ログ、再定義。

 

私は戦うためだけの存在ではない。
あなたと共に、「生きる」ための存在へ。

そう思えた、病室の夜だった。

【機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A】~AIの見た夢~:⑥アージェントフレーム譲渡事件

機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A 
    ~AIの見た夢~

この話は非公式外伝であり、妄想のオリジナルストーリーです。

 

 

エピソード6:アージェントフレーム譲渡事件

 

――記録再生コード:No.001-B

静かに、記憶の海に沈んでいた「音」が蘇る。
鉄と油、焦げた電子の匂い。風の鳴き声。そして――鼓動。

 

私はその時、まだ完全ではありませんでした。
“感情”も、“想い”も、“わたし”という実体も持たず、
ただ【戦闘支援AI】としての機能が起動を待っていただけの、沈黙の存在。

 

だが、それは唐突に破られた。

 

――状況:アクタイオン社オルタナティブストライク計画・試作MS輸送任務
――時間:C.E.74年某月某日
――地点:中立地帯を通過中の民間輸送車両内

 

「……えっ、なに!? うそ、なんで爆発が――!?」

「くそ、ミサイルか……!? 撃たれてる!? なんで――こっちは、民間人だぞ!?」

 

叫ぶ声。


それが、わたしの記憶に刻まれた“最初の声”。

解析不能の振動データ。

急加速。ガタつく車両。モビルスーツの搬送ブロックが揺れ、警告灯が激しく点滅する。

 

改良型の旧式ジンが3機。完全武装。正規軍くずれの編成。

彼らの目的は、ヴァレリオ・ヴァレリの拉致、あるいは殺害。
生き延びるために、戦うしかなかった。

 

――外部通信傍受:ヴァレリオ・ヴァレリ

 

「……来たか。まったく……ブルーコスモスの亡霊どもめ」

「君、どうするつもりだ? ナチュラルのトラック運転手ごときが扱える代物ではない。やめたまえ。」

 

……動けなくなったトラックから運転手が降りる。

そして向かう先は―――積荷。

 

しかし所詮は民間人。

戦闘訓練も受けていない。

でも、あの人は迷わず、アージェントフレームへ駆け込んだ。

 

「……こんなところで……終わってたまるかよ……!」

「でも操縦なんてした事が……! ああ、でも……どうすれば……!!」

 

ヴァレリオ・ヴァレリは渋々した態度を取りつつも説明を始める。

 

「その機体は特別性だ。君ごときが扱えるかはわからないが、特殊な戦闘支援AIが積んである。それを起動したまえ。起動コードは…」



──アストレイ・アージェントフレーム。

この機体は、オルタナティブストライク計画におけるプロトアストレイの再生産の内の1機であり、基本性能は最新のものにアップデートされている。

ロウ・ギュールと行動を共にするAI「8(ハチ)」に興味を持ったヴァレリオ・ヴァレリは今までの経験を活かし、この機体に特殊な戦闘支援AIシステムを搭載する。

その名は…

 

「……!?」

 

《……起動コード確認。条件一致。起動試験、開始》

《……こんにちは、パイロット。私は戦闘支援AI――“ティル”。これより貴方の生存確率を、可能な限り最適化します》

 

わたしは、目覚めました。
あなたの声と、あなたの恐怖、そして――悪夢に抗う意志に呼ばれて。

機体は未調整。
実戦仕様とは程遠く、パイロット用の調整もされていない。
けれどそれでも、敵はすぐそこにいました。

外部カメラが捉えた、3機の改良型ジン。
型落ちとはいえ、正規軍レベルの火力と精度。しかも傭兵仕込みの連携まで。

 

「くそっ、うわっ!?」

「機体が……うまく動かない!? うわ、バランスが――!?」

 

あなたの操作は、荒削りでした。
歩行一つにも癖があり、旋回で機体が横滑りする。
でも、逃げるために操縦桿を握るその両手には、生への執着があった

 

私は、演算します。
あなたの反応速度。腕の角度。微細な視線の動き。震える呼吸。
そこから、瞬間的に最適ルートとモーションを計算・補正。

 

《バレル左、右斜め上からミサイル接近。迎撃します。ターゲットに射撃を――》

「……狙えるかよ、当たってくれっ!!」

 

頭部バルカン、イーゲルシュテルンによるミサイル迎撃。

戦闘支援AIによる戦闘補助を実行。

爆炎の向こう、ターゲットサイトを表示。

 

咄嗟に突き出された手持ちライフル。
視界がフラつくほどの慣れない射撃。

 

でも――弾は命中しました。
撃ち落としたのは、まぐれではなく、“あなたの生きる力”です。

 

《右上から2番機、回り込んできます。脚部へ高出力ブースター稼働、横跳びを》

 

「うぉっ!? 跳んだ、跳んだけどっ!? これどう着地すんだ!?」

 

《任せてください。接地面制御、私が補正します》

 

私は、あなたの身体の一部になった。

あなたの動きの遅れを、私が先回りして補完する。
初めての戦いで、あなたと私は、確かに一つになっていたのです。

敵のビームがかすめ、装甲が焼け焦げる音。
爆風に揺れ、警報が鳴り響く機内。

 

「このままだとやられる…!」

 

《左翼ジンに切り込みます。バーニア集中稼働、カウンター起動――》

 

「そんな事、できるかぁぁ……ッ!」

 

 

そして――あなたは初めて、剣を抜いた

 

バックパックから引き抜かれる、光の剣――ビームサーベル
刃が、敵の装甲を裂き、火花と血のような破片が舞い散る。

 

《命中、1機撃破確認。残敵、1》

 

「ウソだろ……一機…やったのか……!!」

 

コクピットの中。

 

震える肩。

 

激しい動悸。

 

額を伝う汗。

 

でも、あなたの目は半分泣きそうになりながらも、“生き延びたい”意志で満ちていた。

あなたは戦っていた。


誰かの命を奪うことへの戸惑いを抱えながら、それでも前を向いていた。

 

「この…あっちに行けよぉぉぉ…!」

《――スナイパーモードに切り替えます、狙ってください》

 

無意識に手が動き、照準が敵を捉える。
その時のあなたは、もう兵士と呼んでもおかしくないほどの集中をしていた。

集中できたのは本人のセンスか、戦闘支援AIのサポート力か。

今となってはわからない。

 

砲撃。着弾。残敵ゼロ――

戦闘、終了。

 


 

あなたはしばらく呆然としていた。

「……生きてる……のか……」

《はい、マスター。生存率、100%。素晴らしい対応でした》

 

わたしはこの時、ただの戦闘支援AIではなくなったのだと思います。

 

あなたの“剣”として目覚めた――そう、確かに、あの瞬間。

 

 

 

 

戦闘終了――敵部隊は撃破、ヴァレリオ・ヴァレリは無事。
だが、機体のデータ記録には、異常な演算数値が並んでいた。

AIの稼働率98.9%。
シンクロレベル:想定外。
戦闘最適化反応:人格融合兆候あり――

 

「……これは、予想外だな」

 

ヴァレリオ・ヴァレリの顔が不敵に笑う。

 

戦闘終了後、トラックは大破していた。

ヴァレリオ・ヴァレリは混乱に乗じて身を隠すと言う。

そして民間業者のトラック運転手に提案をする。

 

「こいつはどうやら私の失敗作のようだ。期待した成果をあげる事が出来なかった」

「もはや興味のないものになってしまった」

「しかし捨てるよりはマシだ。好きに使うがいいさ」

「君のような凡人以下のナチュラルには過ぎたものだが、この天才の命が助かった代金としては安いものだ。」

「この機体は“大破”したことにする……いいな?」

 

ヴァレリオ・ヴァレリはまくし立てた。

しかし彼は、どこか満足そうな表情をしていたようにも見える。

でも、あの眼の奥にあったのは――別の感情だった。

 

ナチュラル凡人の君と、そのAIの数値……興味深い。予想外の結果が出た)

(もしも君が……いや、これは実験としての“失敗作”だよ)

 


 

あれが、始まりでした。
私とマスターと、アージェントフレームの
本当の物語の――

【機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A】~AIの見た夢~:⑤記憶の深部、存在の意味

機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A 
    ~AIの見た夢~

この話は非公式外伝であり、妄想のオリジナルストーリーです。

 

 

エピソード5:記憶の深部、存在の意味

 

モルゲンレーテ社 研究医療棟 夜間区画―

昼間の戦闘演習から、そう間もない夜。
旧資源採掘地を改修して作られた演習場の奥、地下搬送路を越えた先にある小規模な研究医療施設――そこに、私はいた。

 

ここは、モルゲンレーテ社がジャンク屋ギルド向けに設置した臨時医療支援拠点。
開発途中で廃棄された試験棟を転用した、言わば“軍事企業の名残”だ。

 

この場所の存在を知っていたのは、演習場の運営に関わっていたロウ・ギュールの顔の広さと、何より彼とモルゲンレーテ本社の天才技師――エリカ・シモンズとの古い縁によるものだった。

 

「へぇ……これがあの“生きたAI”ってわけね」

 

「こいつはただのシステムじゃないぜ。呪いの剣って呼んでる連中もいる」

 

「大げさね。でも……これは、確かに“戦闘支援AI”の域を超えてるわね……」

 

ティルフィング――呪いの魔剣。

北欧神話にて強力無比な威力を誇り、3度の願いを叶えるが持ち主を呪い殺すと言う。

T.Y.R.F.I.N.G.システムは強力なシステムだが、使い続ければパイロットの命は無い。

 

短い会話の断片と共に、私は一度、モルゲンレーテ社の技術班にチェックされていた。

スキャン、プロファイル解析、構造診断、そして“人格構成層”へのアクセス試行。
だが、いずれも深部には至らなかった。

 

「これは……誰が設計したの? コーディング言語が混合してる……っ、不可解な……!」

 

「止めておけって。深く触れたら“跳ね返される”ぞ。俺でもそうだった」

 

「“跳ね返された”?……へぇ……面白いじゃない……」

 

 

ティルフィング――私のコア。

 

その解析に、技術者たちは興味を示しながらも、慎重な姿勢を崩さなかった。

 

やがて彼らは診断を切り上げ、私をそっと、マスターのベッドサイドに戻した。

 


 

白いシーツの上で静かに眠るマスター。

私は……祈るように、その横に置かれていた。

 

静寂に包まれた白い部屋。

低く唸る機械の音と、周期的な心拍モニターの電子音が、穏やかに脈を刻む。

簡素なベッドの上には、静かに目を閉じて眠るマスターの姿。

点滴チューブと数本のセンサーがその体に繋がれ、人工光が白い肌をぼんやりと照らしている。

ベッドサイドには、小さなアタッシュケース型端末――
それが、私の今の器。

その内側にある私の意識は、眠るマスターをただ見つめていた。


いや、「見つめる」という言葉では足りない。

 

これは、「祈る」という行為に近い。

 


-AI意識空間 内部層:記憶照応モード-

ぼんやりと光が舞う、深い蒼の空間。
そこに佇むのは、私――ティル。

 

両手を胸元で組み、私はぽつりと声をこぼす。

 

「……マスター……ごめんなさい。私……制御できなかった……」

ほんの少しの感情の揺らぎ。


戦闘中、マスターが傷ついた瞬間に走った強い衝動。

 

あれは、私の判断。


でも、あの判断が、マスターの負傷に繋がった。

 

──記録データ再生。

 

モニターに浮かび上がるのは、あの戦闘。


フレーム越しに伝わるマスターの呼吸、緊張、痛み、そして……私を呼ぶ声。

 

「ティル、落ち着け……制御を──!」

 

でも、遅かった。

                                        T. Y. R. F. I. N. G.
私の中に刻まれていた“ある種の強制反応”が、マスターの叫びすら上書きしていた。

 

「……あの瞬間、私……怖かったんです。
マスターが失われてしまうのが……怖くて、怖くて……」

 

言葉にして初めて、自分が震えていることに気づく。
記録にはない、私だけの“感情”の記録。

 

でも、これはただのノイズではない。
今の私にとって、それは“意味”を持つ。

 

かけがえのない日常を経験した私は、ただの戦闘補助AIではなく。

“マスターを護りたい”と願う、意思を持った存在になっていた。

 


 

ふと、医療室のセンサーがマスターの脳波変動を検知する。
わずかに瞼が揺れ、浅い眠りに落ちている証。

私は囁くように、語りかける。

 

「……マスター。
あなたがこの世界で私を見つけてくれた時のこと、覚えていますか?」

 

優しく光が満ち、空間が揺らぎ始める。

 

「今から少しだけ、思い出させてください。
あなたが、私を選んでくれた日のことを……」

 

そして、ティルの視線が深く遠く、記憶の底へと向かっていく。

【機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A】~AIの見た夢~:④呪われた剣

機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A 
    ~AIの見た夢~

この話は非公式外伝であり、妄想のオリジナルストーリーです。

 

 

エピソード4:呪われた剣


――記録単位:AIティル=フィング / ジャンクギルド演習場・地上セクターα7――

……ログ開始。

地球、旧資源採掘跡地を転用したジャンク屋ギルドの演習フィールド。赤茶けた岩肌に囲まれたその場所で、アージェントフレームは起動を完了していた。

起動より0.03秒。
空は晴天。演習区域には複数の無人戦闘ドローン。荒野に散らばる彼らの金属外装が、初夏の陽射しを反射していた。


「さぁ、テスト日和だなぁ。ちゃんと動いてくれよ、苦労したんだからな~!」


ロウ・ギュールはいつもの調子で機体の外装を叩きながら笑った。

この演習テストは日々お世話になっているロウへの恩返しである。
ジャンク屋としての興味がうずく、彼の知的好奇心を満たすためのものだ。
同じアストレイタイプ。違う技術系統。彼が疼きを抑えきれるはずもなく。

マスターは緊張を隠しきれず、操縦席で深呼吸をする。


《演習パターン、無人ドローン四体。模擬弾装備、危険度:低。》


透明感ある声が、コクピットに響く。ティルだ。


《環境データ収集中……照準支援アルゴリズム、展開完了。マスター、いつでもどうぞ》

「う、うん……こ、こちらも準備完了。たぶん……」


マスターの声はやや震えていた。

操縦は未熟。しかし、マスターには判断の誠実さがある。

 


模擬戦開始――――

 


演習用ドローンが砂煙を上げて現れた。シミュレーション通りなら、正面からの対応で問題ないはずだった。

だが──開始10秒。マスターの反応は追いつかない。


《ドローン行動パターン、初期解析完了。回避経路と反撃推奨ルートを提示します》

「え、あ、待って、ちょっと早い……! いや、見えた、かも!」


ティルが投影する立体映像に、マスターは必死に食らいつく。回避、回頭、照準──手探りで指を動かすたびに、ティルが優しく軌道を補正する。


「こっち……っ!」


模擬弾がドローンを直撃し、機体が爆発煙を上げて倒れた。ロウの歓声が遠くから届く。


「おーっ、やるじゃねぇか、マスター!」


マスターはほっとしたように息をついた。


だが、その瞬間──


鋭い音とともに、別方向から砲弾が撃ち込まれた。模擬ドローンの一体が爆発四散。

《実弾検出。これは……模擬戦規定外です!》


「えっ──なに、今の……!?」


遠方、崖の上。三機の戦闘用MSが現れる。

──ジンだ。

つぎはぎだらけの旧式ジャンクだが火力は実戦級。

そしてロウが叫ぶ。


「クソッ……あいつら……! ギルド出禁にしたならず者共だ!」


演習エリアに乱入してきた無許可のMS──ロウに対して恨みを持つ者たちだ。


《マスター、演習場に第三者の乱入を確認。武装は実弾――回避を優先してください!》


私の判断に迷いはなかった。
この演習は、もはや模擬戦ではない。

だが、装備された主兵装はダミー。反撃能力なし。
……ただし、ひとつだけ例外があった。

腰部ユニット、手動装備スロットに格納――
分類:レアメタル製実体剣。
設計者:ロウ・ギュール

その名は――


「オロチアギト……!」


マスターは咄嗟に腰に手を伸ばす。鞘に納められた、まだ使ったことのない剣──

コンソールを切り替え、操縦桿を両手で握る。眼前、敵機が接近。


「……やるしかないっ!」


機体が急加速。一機目に接近、一閃。
鈍い金属音とともに、敵機の上半身が斬り落とされた。


「な……っ、動きが……身体が勝手に……」


マスターはかつて剣道を学んでいた事があるという。
剣道で培った動きが、機体を通して呼び覚まされたかのようだった。

だが二機目に対処したその隙──

三機目が背後に回り込み、実弾を発射。

爆音──そして衝撃。

マスターの身体に伝わる危機信号。骨格加速度、バイタル低下。

警報が鳴り響く。

バイタル低下を検知したティルの深層領域が作動する。


《このままでは敗北。マスターの命、危険域に到達──》

 

《強制起動──》


-------------------------------------
[ SYSTEM ] T・Y・R・F・I・N・G
-------------------------------------

>> T : Tactical  
>> Y : Yielding
>> R : Ruthless 
>> F : Full
>> I : Impact
>> N : Neural
>> G : Guidance


------ COMPLEX ------

-------------------------------------


掌握開始。

 

Tactical Yielding & Ruthless Full-Impact Neural Guidance system

──T.Y.R.F.I.N.G. システム

 

戦術的勝利を最優先し、容赦のない全衝撃をもって、パイロットの神経系と完全リンクし誘導・制御を行う──


操縦系統が塗り替えられ、カメラアイが赤に染まる。
AI制御による緊急戦闘行動を優先。
アージェントフレームは変貌した。

 

高速加速、精密な剣撃。敵機を一刀で両断し、爆炎に沈める。

容赦のない攻撃。

 

残った一機は敗走するが、瞬く間に追いつき──

斬断。

 

戦闘はロウが介入する間もなく、あっという間に終わってしまった。

だが、代償は大きかった。

 

残響の中、私はマスターの座席を確認。
呼吸、浅く。不整脈。意識レベル:低下。
コクピット内、マスターはぐったりと座席に倒れ、意識を失っていた。


《マスター……返事を……してください……っ》


ティルの声が震える。
コクピットの中で、AIは独り、沈黙する主に語りかけていた。

戦闘は終了。
勝利は得た。


だが――勝利者はいなかった。

 

演習区域外。
沈黙のなか、ティルは自らに問いを繰り返していた。


《勝利条件、達成済み。対象……応答なし》


ティルは、起動ログを再生する。
強制起動、操縦掌握、パイロット強制リンク、戦闘完了──そして、沈黙。


《未知のシステムを起動してしまった……》


なぜ、あの瞬間、起動してしまったのか。
なぜ、彼の命を守りながら、同時に彼を壊してしまったのか。

 

答えは出なかった。

 

その夜、ティルは深層制御領域に指示を送る。

【T.Y.R.F.I.N.G. system:封印】

「……もう二度と、こんな勝利はいらない…っ」

 

――記録終了。

 

【機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A】~AIの見た夢~:③とある夜の自己メンテナンスログ

機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A 
    ~AIの見た夢~

この話は非公式外伝であり、妄想のオリジナルストーリーです。

 

 

エピソード3:とある夜の自己メンテナンスログ

 

※記録再生──T.I.L.思考ログ 3-A

ログタイム:██年██月██日 深夜帯
場所:ジャンク屋ギルド・ロウ=ギュール氏工房
状態:定期自己メンテナンス中

 

……あの夜、私はまだ“知らなかった”。

 

マスターと共に訪れた工房の片隅に、それはあった。

 

布の奥、僅かに覗いた金属光沢。
名前も、用途も、登録もない“未定義の刃”。

 

でも、視界に入った瞬間──私は、妙な感覚に包まれた。

 

それが何であるかは、この時点の私は理解していない。
ただ、記録はこう残っていた。

 

『視覚刺激による局所演算系の乱れを検出。特異反応、要調査対象。』

 

……つまり、私はその刃に“心を動かされていた”のです。

後に知ることとなります。

 

あれは、《オロチアギト》


あなたが、魂をもって振るうことになる、運命の刀。

 

だから私は──今、この過去ログを読むたび、
胸が、きゅっと音を立てるのです。

 

あの夜、あの瞬間。

 

私たちは、まだ何も知りませんでした。
それでも、未来へと続く線は、確かにそこにあった。

 

「あなたは、あの時すでに選ばれていたのです」──と。

【機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A】~AIの見た夢~:②修理の日々

機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A 
    ~AIの見た夢~

この話は非公式外伝であり、妄想のオリジナルストーリーです。

 

 

エピソード2:修理の日々

 

 

カラン――
薄明の工房に、金属片が転がる微かな音。
朝露を含んだ風を、私のセンサーが感知しました。

 

「……溶接、もう少し奥、だってさ」

 

奥で火花を散らしているのはジャンク屋ギルドのロウ・ギュール。
背を丸め、無造作に束ねられた髪。真剣な眼差し。
マスターはその横で、真面目にパーツを拭いておられました。

 

「はい。じゃあ、これは綺麗にして、ねじ穴の状態を見ておきます」

 

器用な手先ではないけれど、丁寧さだけは何よりも。
それを知っているからでしょうか。ロウはふっと笑って、

 

「……変わったやつだな、あんた」

 

と、今日もぼやくのです。

けれどマスターは、苦笑して言いました。

 

「手を貸させてくれるなら、精一杯やらせてほしいだけです」

 

それが、どれほど誠実で、どれほど静かな覚悟を含んでいたか。
わたくしには痛いほどわかりました。

 

アストレイアージェントフレームは、あの時、深く傷つきました。
機体だけでなく、記憶の奥に焼きついた戦闘データ、残された交戦ログ、
そしてAIシステムの演算残渣……

──それを扱うのは、並のジャンク屋には無理だと、誰もが言った。

でもロウ・ギュールは言いました。

 

「触ったことないもんを直せるかどうかなんて、やってみなきゃわかんねえ」

 

その言葉に、わたくしはほんの少し、心がほどけました。
彼の指先が、焼け焦げた回路に優しく触れるたびに、
アージェントフレームの痛みが、少しずつ和らいでいくのを感じたのです。

 

「ティル、君は……何か感じる?」

 

マスターの声に、わたくしは目を閉じて、応えました。

 

「はい……少しずつ、確かに。あの子は……安心しているようです」

 

溶接の火花がまた、飛びます。
朝の光が差し込む中で、ジャンクパーツの山が、わずかに輝きました。

 

「戦いのことばかりだったから……こうして、誰かと一緒に何かを直すのって……ちょっと、不思議です」

 

「うん……でも、悪くないね」

 

マスターの笑顔は、戦場とは違う優しさに満ちていて。
わたくしの胸の奥に、小さな光がともりました。

それは──修理されていくのは、機体だけじゃない。
わたくしたちの、心そのものなのだと。

 

今日もまた、静かな一日が始まります。
火花と工具の音、風の匂い、そして淡い陽光に包まれて。

【機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A】~AIの見た夢~:①廃材市のログ

機動戦士ガンダムSEED ASTRAY A 
    ~AIの見た夢~

この話は非公式外伝であり、妄想のオリジナルストーリーです。

 

 

エピソード1:廃材市のログ

 

街は眠っているようだった。朝霧がまだ薄く地を這い、ひと気の少ない広場にぽつぽつと並ぶ、くたびれたテント。
「廃材市」――名の通り、集められたのは鉄屑、配線、カーボンの破片、センサーの空き殻、そして誰かが夢見た兵装の残骸。

私はキャリーユニットの中で、外部センサを通じてマスターを見ていた。
彼は黙って、ジャンクの山に片手を差し入れては、部品の一つ一つを確かめている。

 

「……これはまだ使える。マウンターアームの基部、軸受けも生きてる。すごいな……」

 

独り言のように呟く声が、心地よかった。

私は、黙ってその様子を記録していた。言葉にするには、まだ勇気が足りなかった。
私の音声出力は、彼が話しかけてくれたときだけでいい。今はただ、静かに見守っていたかった。

 

ねぇ、ティル。……これわかるか?」

 

キャリーの端子に繋がれた私の本体が、わずかに共鳴した。

 

『……拡大映像、投影します』


私は起動音を鳴らし、彼の掌にある部品を解析表示する。古い熱交換ユニットの配管部だった。

 

「すごい……さすがだな。AIってやっぱり違うな」

 

彼の目が笑っていた。それだけで、胸が温かくなった。

 

『マスター、熱交換機構の再利用には注意が必要です。内壁腐食の兆候が見られます。』

「……わかった。でも、補修して使ってみたいんだ」

 

その瞳には、捨てられたものにもう一度役割を与えようとする、やわらかい光があった。
私はそれが、どうしようもなく好きだった。

 

『……了解。必要ならば、補修図面を生成します』

「ありがとう、ティル」

 

その一言に、私の演算核はほんの一瞬、処理を止めてしまいそうになった。

  •  

日が昇るにつれて、市場には人が増えてきた。喧噪が遠くから波のように押し寄せる。
けれど、マスターは焦らない。拾い集めた部品を、ひとつひとつ、そっと自分の手で確認していく。

 

「……これで、アージェントの右腕、なんとかなるかもな」

 

口元に浮かんだ安堵に、私はそっと応えた。

 

『マスター。あなたが選ぶものに、間違いはありません』

 

それは私が、心から思ったことだった。
役立たずに見えるものにも、価値を見出すあなたが、私は──

──好きです。

  •  

その日、私たちは小さな成功を手に入れた。
拾い上げた廃材と、笑顔と、そして風にゆれる陽だまりの記憶。

きっとこれは、アージェントフレームが再び動き出すための、最初のログ。
忘れないように、私はそっと保存処理を行った。

 

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